現在、すべてのMRS検査は調査研究目的のみ使用が許可されています。したがって検査施行にあたり本人の承諾が必要であり、保険適応外となるため保険請求することはできません。

 
MRIとMRSの違い
 

 MRSはMRIで見ることができないものを見ています。

MRIは万能ではありません。CTも万能ではありません。さらにMRSは限られた分野にしか利用できないため、検査目的を明確にしなければ何をやっているのか分らなくなります。しかし目的にかなう測定結果が得られた場合は、他の検査方法では絶対得ることが出来ない有益な情報が得られます。
プロトンMRSでは乳酸・脂肪を含めてもせいぜい5つのピークだけで確定診断が出来るほど病態は単純ではありませんが、細胞の代謝活動を調べることが可能なので「MRIやCTの画像に現れない変化を捉えることが出来るかもしれない・病態解析が可能となるかもしれない」というところに有用性があります。MRIやその他の画像診断で鑑別がつく場合はそれほど必要ではありませんが、そうではない場合には強力な手段となり得ます。

MRSで開発されたシーケンスの多くがMRIで利用されており、MRIでは画像表示(imaging)が目的ですがMRSでは分光(spectrum)表示が主たる表示となります。
また、イメージングでは見ることができない特定の原子核の数を調べることが可能で、MR-SI(CSI: chemical shift imaging)では各代謝物の体内分布を示した代謝画像(metabolic image)を作成することができます。
1H_MRSでは
・ 原子核の数
・ エネルギー代謝(糖代謝)
・ 神経細胞の割合
・ 細胞活性化の度合い:悪性度の判断
などがわかるとされていますが測定したデータをどう扱うか、決まった方法がありません。現時点で定量分析は研究中で定性分析が主体であると思われます。

 

   測定が必要あるいは有用であると思われる疾患

画像で判断できない場合に有効で、MRSと病理のみで鑑別が可能となる疾患があります。

1H-MRSでは、
・ 超急性期脳虚血(脳塞栓):発症後30分以内には拡散強調画像で捉えることができない脳虚血が存在します。
・ 脳虚血〜梗塞の経過観察:治療効果の判定および予後の予測。
・ 脳腫瘍、膿瘍、変性疾患の鑑別およびその経過観察。
・ 腫瘍、炎症、虚血の鑑別。
・ 上顎洞腫瘍、耳下腺腫瘍などがあります。

 

 
 装置・アーチファクトについて

装置はMRS用に特別な静磁場調整が必要で、MR-Iの画像に全く問題が無くてもMR-Sでは重大なアーチファクトが出現することがあります。
特にプロトンでは0-5ppmの測定をしたとしても、その周波数差は1.5Teslaではわずか250Hz程度であり、CreatineとCholineの差は12.8Hz、Lacの二峰性ピーク(カップリング)は約7Hzで出現します。また、NAAの1000倍以上にもなる巨大な水の信号を抑制しなければならないため精密なシミングが必要であり、そのために厳重な静磁場調整が必要で定期的にMRS phantomを測定して磁場均一度を測定する必要があります。


ここで問題となるのはMRSのアーチファクトがMRIほど知られていないことで、特に検査件数の少ない施設ではその存在すら知らないことがあります。MRSのアーチファクトは、eddy currentや静磁場の不均一に起因すると思われるものと、測定対象物に磁場不均一を生じる原因があるものに分けられます。

eddy current:傾斜磁場のスイッチングによって生じることが知られていて、新しいタイプの装置ではgradient coilをセルフシールドタイプにするなどしてエディーカレントを抑える工夫がされています。悪影響としてはスペクトル分解能の低下と波形のゆがみが生じることで、調整が悪いとshort-TEの測定ができなくなります。

静磁場の不均一:例)ガントリ内の磁力線はすべて平行でなくてはならないのですが一部で歪んで極性が逆になってしまうようなことが生じて、本来同位相で表示されるはずのスペクトラムの一部で位相が逆になってしまう様なことが発生します(fig.1)。特にchemical shift imagingでは水のリファレンスデータの収集をしていないため不均一には敏感で顕著に出現します。

Fig.1 MRS-phantomでのNAAの代謝画像(metabolic image)とスペクトラム(spectrum)。TE=144, TR=1000


左右でスペクトラムの位相が正反対になっているが、マグネットのシミング(超伝導コイルの電流値)を調整し直すことによりこの現象は解消された。

測定対象に原因がある場合:メタルインプラントや含気骨近傍、空気などの磁化率が極端に異なるものの近くを測定する場合には傾斜磁場が存在すると考えられ、励起した場所から異なる周波数の信号が返ってくる事が考えられます。同じく脂肪組織の近くも良好なシムが得らにくいのですが、pre-satを効果的に利用することで測定可能となることがあります。また、脳出血や鉄沈着がしやすい部位での測定では含有する鉄分の影響で性磁場の均一度を保つことができなくなり、シム(水の半値幅:FWHM: full with at harf maximum)を低くすることができなくなることが多いようです。
このことから、信頼性の高い測定データを収集するためにはMRI(画像)とは違った知識と経験及びコツが必要になることがわかります。

MRSは計測後にデータを加工してスペクトラムを作成するのではなく、計測する時点で精度を上げておかなければならない為細かい決まりごとが多くあり、そのすべてをおこなうことが要求されます。また、たまにしか計測を行わない施設では、得られたデータの良否の区別がつくように訓練を行うようにして下さい。


   臨床応用でのシーケンスの使い分け

通常使用するシングルボクセルのパルスシーケンスにはPRESS (プレス:point resolved spectroscopy)とSTEAM (スティーム:stimulated echo scquisition mode)があります。

PRESSは、 chess-90-180-180とchessパルスの後180°パルスを2回使用するため感度がSTEAMの2倍あり、double spin echo法とも呼ばれています。ただし、180°パルスを使用する関係上スライス選択の正確さではSTEAMのほうが良好で測定領域周囲の脂肪組織や空気の存在に注意する必要があり、同様にTG(total gain)の数値も高くなりSARも高くなります。TE=35,144,288といった数値で測定することが多く、short-TE(35)ではベースラインが揺らぎますが良好なSNRを得られるため臨床応用では有用だと考えられます。TEを長く(144以上)するとベースラインが直線化してきてSNRが低くなり、short-T2のイノシトール(inositol)などのピークを捉えることが出来なくなります。

PRESSは感度が高く、8cc-1ccあれば測定可能で使用頻度が高いと思いますが、測定領域周囲からの信号混入が考えられるので脳内部でも特に脳出血や鉄沈着がみられる場合にはシムの調整が出来ず測定不可能となることがあります。そういう場合にはSTEAMを使用するか、測定領域のimageを撮像して設定領域と実際の信号測定領域のズレを調整する必要があります。

STEAMは chess-90-90-90とchessパルスの後90°パルスを3回使用してstemulated echoを測定します。感度はPRESSの1/2に下がりますがTE=13程度まで短かくすることが可能なので、short-T2の代謝物測定に向いています。スライス選択が正確で、内部の信号強度も均一になるためSNRの良好なshort-TEでの測定に使用します。脳表面や出血領域近傍などPRESSでシムが取れない場合などに使用できますが、得られたデータをPRESSと直接比較ができませんので注意して下さい。

測定データの比較をするためには、同一のシーケンス(計測条件)・解析方法で同程度のシムがとれていることが必要条件となります。

どちらのシーケンスでも乳酸(lactate)のピークはカップリングの影響でTEにより位相が変化するので、乳酸と脂肪を分離するためにshort-TEとlong-TEの測定を必要とするときもあります。

 

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